本年もどうぞよろしくお願いいたします。
「大掃除しないと」と思い始めて3年くらい経ちます。年末は無理だった、年明けにしよう、GWにしよう、盆休みにしよう…などと思っているうちに、あっという間に次の正月。特に40代に入ってから時間の経つのが早い早い。人生後半戦。やりたいことはできるうちに、が最近のテーマです。
やはり人生の後半戦にさしかかった女性が主人公の映画『ブラックバード、ブラックベリー、私は私。』が明日(3日)公開になるので、2025年の初めにお薦めしたいと思います。
舞台はシュクメルリで日本でも知名度を上げたジョージア。小さな村で雑貨店を営む48歳の女性エテロは、ずっと独身で生きてきました。ある日、崖から落ちかけて死を意識したエテロは、いつも商品の搬入にやってくる男性に、これまで感じたことのない衝動を覚え、生まれて初めて男性と肉体関係を持ちます。彼女の前に開かれた新しい扉とは…。
こう↑あらすじを紹介すると、「寂しいオバサンが人生の秋に性に目覚めてしまった話」だと思われそうですが、ちょっと違うんですよ。
雑貨店の経営と、川まで歩きブラックベリーを摘むことがエテロにとってほぼ日常のすべてなのですが、周囲が寂しい女だと哀れみの目を向けても、当の本人は今の暮らしが決して不満なわけではありません。
エテロには家族にある事情があり、強権的な父や兄の元で若年期を過ごしたことが彼女の来し方に大きく影響しています。決して幸せとは言えない半生を生き抜き、熟年になって自分の求める物、自分の価値を分かっている。そんな彼女は非常に格好よく、ずっと独身の彼女を “心配している風”に近づいてきては干渉し、相手を下げることでしか自分を上げられない同じ村の女性たちの境遇のほうがよほど哀れ。彼女たちとの会話に出てくるエテロの言葉は金言満載でスカッとします。
原作小説「Blackbird Blackbird Blackberry」を書いたタムタ・メラシュヴィリは1979年生まれの作家でありフェミニスト活動家でもあるそうで、私と同世代。ジョージアの社会情勢と同じには語れないと思いますが、日本には就職氷河期に社会に出て、非正規雇用で働き、結婚に対して夢などなく、自分の幸せを追求している女性って、すごく大勢いると思います。エテロのように独りの状況を享受できている場合はいいのですが、そうでない人もいるでしょう。そしてこの作品、ラストの展開がまたなんとも…。見終わったあと小一時間は余裕で語れる映画だと思うので、お正月休み中にでもぜひ。
そして、この映画を見るときっと語りたくなるはずなのが、存在感抜群のケーキ。女性たちが集まる場に、必ずスイーツが登場します。ケーキを頬ばる女たちの幸せな顔、怪訝そうな顔、グロテスクな顔、涙で濡れた顔。甘い物は幸福を与え、悲しみを癒やしもするけれど、思考を麻痺させもする。人を笑顔にするけど、困惑もさせる。エテロに次ぐ、この映画の主役だと思いました。
エテロの大好きなケーキはナポレオン。ミルフィーユ生地にクリームとイチゴが挟まった、もしケーキにカーストがあるならその華やかな見た目で上位に君臨しそうなアレをイメージするかと思いますが、ジョージアのナポレオンは、パイ生地とクリームを重ねただけの、すごく素朴でどっしりしたお菓子。こんな記事を見つけました。サムネの画像からもイメージできるでしょうか。
カフェで知らんおっさんに太るぞと要らぬ心配をされても、このボリューミーなケーキをもりもり食べるエテロが気持ちいい。これ、日本で食べられるお店ないかな。
自分としては、独りでも面白おかしく生きている中年を体現していくことが今後の目標の1つでもあります。その大前提として。今年はどの占いを見ても(普段は信じるほうではないが)「健康に注意」と書かれていたため、働き方を見直して無理なく過ごしたいものです。
2025年1月3日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開
『ブラックバード、ブラックベリー、私は私。』
配給:パンドラ 公式サイトhttp://www.pan-dora.co.jp/blackbird